第2回森の広場市民観察会― 企画から本番まで ―やぶなべ会会長 室谷 洋司
今年5月についで第2回目の「森の広場市民観察会」が新城の「青森市森の広場」で開かれた。 この観察会は「青森市森の広場」が14年前の平成4年に開設されてからスポーツ広場が一部市民に活用されているだけで、広大な森、草原、池などの自然環境が多くの市民に知られることもなく放置されていることから、その有効活用ができないかと青森市に拠点をもつ自然環境に関わる8団体が青森市など各方面に共催、後援を得て5月から始めた。 第2回目のテーマは、「秋・森の広場にようこそ! 秋の鳴く虫・草花観察会」で、さらに通り一遍の観察会ではなく、広く市民との文化交流の一翼をになおうと俳句の会にも呼びかけて後援をいただき、多くのかたがたのご協力のもとに結果的には市民観察会の新しい方向性を見いだすことができた。 この森の活用には、さまざまな課題が残されている。そのなかで一番に必要なことは育ち始めている市民観察会の継続であろう。その参考になればと企画準備段階から本番、反省までを順序だててまとめておくことにした。 ■ 直前の準備 ■第2回目の開催が決まってからの具体的な作業状況は文末にまとめたが、ここでは直前の準備について記録しておく。ことし2006年の夏は真夏日が続き記録的な高温の年になったが、一方長期予報では開催日とした9月10日あたりに天候の崩れが予想された。選ばれたテーマは生き物たちのそのときの微妙な生理、生態をターゲットとしただけに、順延などの調整がきかないものと覚悟をする必要があった。 一発一中を目指しながら、雨天の日を想定して周到な準備を進めることにした。 植物部門は、開催日が近づいてから、この時期この場所にはどの程度の草花、あるいは果実が観察できるのかを確認するため、観察会前日に下見としてガイド対象となる植物名を、予定ルートを回ってメモした。結果は表1「観察できる生物リスト−9月10日」(ページ末尾)にまとめたが、開花中が47種、結実が18種などと、合わせて100種ほどの植物がルート沿いで観察できることが分かった。 動物部門のうち「鳴く虫」のバッタ、キリギリス、コオロギ類はどうするか! 常識的に好天の場合は午後でしかも遅い時間のほうがベターである。観察会のスケジュールはそのようにしたが、さて相手は動き回る生き物。首尾良く観察できない場合に備えて生きた虫たちを集めよう、そして観察会前のガイダンスの時間を利用してスクリーンに大写しでご覧に入れようということになった。スタッフはこの作業に1週間ほどを費やした。準備ができた、生きた昆虫は表1のように24種であった。他に番外としてモリアオガエルなども展示した。 鳴く虫を提案したスタッフのIさんは自ら中心になって虫とり作業にあたることになったが、観察会本番に合わせて展示が終わったとき、ホッとした面もちでつぎのように述懐した。 「こんなに一生懸命、バッタやキリギリスとりに夢中になったのは50年ぶり。あの頃は青森市の今の操車場跡地に近い所に家があり、ここの遊び場で難なくいっぱい集めたものです。今回は環境が変わったといっても自信はありました。ところがいざやってみると過半数は簡単に集まってまだ勘は大丈夫だと思いましたが、キリギリスがどうしても採れません。最後は八甲田山の田代高原だと3人で出かけようやく1匹を捕まえました。一部の虫は少なくなってしまいました」、と語ってくれた。
<写真1> 観察会準備OK。ガイダンス会場に並べた秋の鳴く虫
<写真2・写真3> 1種ずつプラスチック容器に入れて展示 ■ 生きた虫とアップ映像に目をくぎづけ ■9月に入っても好天は続いたのに10日の本番の日は天気の谷間、朝から強い雨になってしまった。しかし長続きはしないで止むと、データ解析に強いMさんから、つぎのようなメールが飛び込む。「森の広場の昼過ぎの降雨予測は1ミリ〜3ミリの小雨。風速は地域時系列で15時頃まで3〜5m/s。以上から予定通り決行し早めに屋内管理棟に戻ること」。よし、準備を進めてきた大型映像からご覧に入れよう。生きた虫の展示も完了、生態写真の貼り付けもOKで準備万端。 嬉しいことに、観察会開始時間の1時間も前から参加者が続々と詰めかけてきた。開催の有無を問い合わせてきたのは1件だけ。青森山田高校の理科研究会に入っているという高1の生徒は雨にずぶ濡れになって自転車でやってくる。虫が大好きという8つの男の子もお父さんと網をもってきた。秋の草花をみたいと80歳の女性はただ一人バス(岩渡行きの路線バス)に乗ってやってきた。ひときわ目立ったのは俳句同人「薫風」の主宰者・小野さんをはじめ12人の方々が到着。これで関係者も入れて42人が勢揃いした。 「バッタはバッタでもこんなに種類があるんですか? キリギリスもこんなに大きさや姿かっこうが違う! コオロギもエンマだけでないんですね!」…つぎからつぎへと大写しされる鳴く虫オンパレードに目はくぎづけ、さらにメモをとる」。展示された生きた虫もときどき鳴き声を。 際だって美声を響かせているのはスズムシ。これはここに住んでいないが、Yさんが飼育中のものが数百匹あるので、小分けして飼い方のメモと一緒に差し上げます。お帰りにどうぞお持ちください、には大歓声。
予定通り2時半から野外観察に入る。「森の広場」には一周1.6キロの観察ルートがある。俳句グループと一般グループの2班に分かれて植物、動物のガイドが名前や特徴などを説明する。野花や果実は前にも述べたようにつぎつぎと出てくる。ほどなく生長の旺盛なサンショウの木があった。この小粒の実にはふさわしくないほど「たわわ」に赤い実をつけている。 小雨模様であったのが幸いしたのか、方々から虫の音も聞こえてくる。甲高い声のわりには体がか細いカンタンもススキの葉っぱに止まっている。 質問がつぎつぎと出てくる。オオウバユリの大きな果実をみて花はどういう色なのかとか、ヌスビトハギってどうしてこんな名前がついたの?とか。俳句グループには先頭に立ってあと何分などと時間読みの導き役がいた。このあとの大事な作業があるのだ。 ■ 俳句会のセレモニーに興味津々 ■俳句グループは3時半すぎには管理棟の集会室に集まった。メンバーは五七五の17文字にそれぞれの思いをたくす。2句ずつだ。主宰者の小野寿子さんが短冊に見事に書き込んでいく。会場には幅の広い紅白のテープが張られ、1枚1枚の短冊をテープで貼っていく。4時、一人持ち票2点で好きな句に付箋をつけていく。短冊は27句、あれ?12人のはず。おかしい。
<写真8> 俳句同人から提出された句を主宰の小野さんがスラスラと短冊に
<写真9・写真10> 1枚1枚紅白テープに貼り付け投票の付箋を <写真11> 最後に小野さんの講評、会場とのやりとりが軽妙 小野さんが詠み上げ、付箋をつけた人、つまり票を投じたひとの感想を披露してもらう。最初に4選句から。ついで3選句、…。最後に小野さんの講評があり作者を明らかにしてもらう。作者はその心を吐露。会場には一般グループも参加して、拍手喝采! ところで小野さん、この「オニヤンマ羽音残して風にのる」はどなたですか? 4票入った4句のうちの1句だ。鳴く虫を50年ぶりに集めていたIさんの挙手に場内が大拍手。小野さんからも賞讃のお言葉。Iさんはトンボの専門家でもあるのだ。いつもの思いがこの場で昇華したのだろう。もうひとり部外者でEさんも2句を寄せていた。季語があれば良かったのだが、という講評。Eさんは水生昆虫の専門家だが書家としても誉れ高く、今度は俳人として脱皮するかも知れない。 午後4時ぴったりで観察会、句会が終了。次回を期して散会した。 ■ 第2回観察会までの流れ ■
<表1.> 第2回市民観察会観察できる生物リスト
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●ススキ | ▲サンショウ | ●ヒメシロネ | ●エゾニュウ |
●ヤマハギ | ▲ハマナス | ●ハナニガナ | ▲ヌルデ |
●ノコンギク | ▲ヒメミカンソウ | ●ハッカ | ▲ミツバアケビ |
●ゴマナ | ▲アキグミ | ●アカバナ | ●オオハンゴンソウ |
●ツユクサ | ▲ノブドウ(メクラブドウ) | ●ヒメナミキ | ▲ツリバナ |
●アブラガヤ | ●クズ | ヒルムシロ仲間 | ▲ムカゴイラクサ |
●シナノザサ別名クマイザサ | ●アキカラマツ | ▲サンカクイ | ▲オオバクロモジ |
●キツリフネ | ●ゲンノショウコ | ●ヒメジソ | ●アキノノゲシ |
●アオモリアザミ | ●イヌタデ(アカマンマ) | ▲ガマ | ●ヒメキンミズヒキ |
●ヒメジョン | ●ミゾソバ(ウシノヒタイ) | ▲ノリウツギ | ●サワヒヨドリ |
▲オオウバユリ | ●カタバミ | ▲カンボク | (ヌルデ紅葉) |
キツネヤナギ | クマヤナギ | ●ヘクソカズラ | セイタカアワダチソウ |
イヌコリヤナギ | ●エゾミソハギ | ●ツリフネソウ | ▲ヨウシュヤマゴボウ |
●アキノエノコログサ | ●ヨモギ | クジャクシダ | オオチドメ |
●キンエノコロ | ●ダイコンソウ | ▲コマユミ | ●ツルリンドウ |
ツタウルシ | ●チジミザサ | ●ガンクビソウの仲間 | カラマツ |
●ゴマナ | ●ハンゴンソウ | ●コケオトギリ | スギ |
●ヨツバヒヨドリ | ●ヌスビトハギ | ▲ハエドクソウ | アカマツ |
●ヤマニガナ | ●メマツヨイグサ | オオバボダイジュ | |
●ツリガネニンジン | (アレチノマツヨイグサ)? | (モイワボダイジュ)? | |
●エゾカワラハハコ | ●ニッコウクルマバナ | ハルニレ | (合計80種) |
コオロギ類: 5種 | ヒシバッタ | エゾツユムシ |
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エンマコオロギ(♂単独、♂♀同居、混棲) | オンブバッタ | アシグロツユムシ |
シバスズ | ミカドフキバッタ | セスジツユムシ |
タンボオカメコオロギ | クルマバッタモドキ | キリギリス |
カンタン | トノサマバッタ | ヤブキリ |
マダラスズ | ハネナガフキバッタ | ヒメクサキリ |
バッタ類: 10種 | イボバッタ | ヒメギス(短翅型、長翅型) |
ヒナバッタ | イナゴモドキ | その他: 1種 |
ナキイナゴ | キリギリス類: 8種 | オオカマキリ(名札の画像は♀、現物は♂♀) |
コバネイナゴ | ウスイロササキリ | (合計24種) |